BUSINESS TREND 【はじめに全文公開】「不動産サイクル理論で読み解く」不動産投資のプロフェッショナル戦術 2020.03.24
住宅・不動産総合研究所理事長の吉崎誠二 新著「「不動産サイクル理論で読み解く」不動産投資のプロフェッショナル戦術」が3月19日に発売されました。
「不動産サイクル理論で読み解く」不動産投資のプロフェッショナル戦術
・ 吉崎誠二 著
・ 日本実業出版社
本書では、「安定の賃料収入」を得るための投資対象の選び方と、「サイクルに乗って値上がり益」を得るための不動産市況の見極め方などについてをわかりやすく説明しております。
不動産投資を「不動産市況のサイクル」そして「サイクルとのズレの読み解き方」など、新型コロナウイルスで先の見えない経済状況の今だからこそ知っておくべき基本理論など、ビジネスとして不動産投資を行う方はもちろん、サラリーマンの方々など不動産投資で成功を目指す人にとって必携の一冊です。
HRI journalを日頃御覧頂いている皆様のビジネスや不動産経営のお役に立てれば幸いです。
特別に、本書の「はじめに」を以下に全文公開いたします。
2019年5月、ニューヨークマンハッタン5ストリートのキャビア専門店。出張中だった僕は、ニューヨーク郊外の不動産プロジェクトへの投資を検討するためにきていたある資産家の男性と夕食をともにしました。
彼は、大好物だというキャビアを食べ、白ワインを飲みながら話し始めます。
「吉崎さん、次の上昇サイクルはいつからかな? 専門家の意見が聞きたいな。大学を出て、ある程度の資金ができた2000年代半ばの好景気サイクルと今回のサイクルには上手く乗れたと思う。もう50を過ぎたから、年齢的に勝負をかけられるのは、次が最後かな。だから、しっかりと好機を逃さずに不動産を買いたいんだよね」
不動産投資でしっかり成果を出している投資家は、「不動産市況にはサイクルがある」ということを知っています。日本において不動産価格には、明確なサイクルがあるのです。そして、それに基づき、素早い行動を起こします。
不動産関連ビジネスで大きく事業を拡大する経営者は、不動産市況のサイクルを意識しながら経営戦略を練っています。
「これからは仕掛け時だ」あるいは「これからしばらくは、大きく動くのは止めて、じっくり様子を見よう」と、サイクルに乗る形で投資のかじ取りを行ないます。
個人投資家であれば、普段は賃料収入(インカムゲイン)でコツコツ収益を上げ、サイクル次第でチャンスがきたら、勝負に出て値上がり益(キャピタルゲイン)を狙いにいく、というのがスマートな不動産投資のイメージです。
つまり、不動産投資・不動産関連ビジネスで成功を収めるためには、2つのことを行う必要があります。
1つ目は、「不動産のサイクルをつかむこと」、2つ目は、「それに基づき実践・行動すること」。「行動する」は、投資をメインに考えている方にとっては「不動産を買う・売る」ですし、ビジネスにおいては「経営戦略を練って活動し、営利を追求する」ということになります。
『人間における勝負の研究』(祥伝社、初版は1982年刊行)は、言わずと知れた棋士・米長邦雄先生の名著です。このなかに、時代の波に呑み込まれていくお父様の生き方を見て、「大きな波の前には一個人の力などでは、とても抗しきれない」とあります。そして、「大勢判断こそが最も大事」であり、「細部にとらわれずに、全体を見る」姿勢こそが、「許容範囲を大切にする姿勢を植え付けた」と述べられています。
この一節こそ、不動産関連ビジネス・不動産投資のあり方をよく表していると思います。
また、これは不動産だけにあてはまることではありません。
事業(産業)にはライフサイクルがあるとされています。ある産業が興って、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つの順に進んでいくときにはS字カーブを描きます。各期の進み方(つまりS字カーブの上がり方、曲がり方)は異なるものの、その進み方は共通してS字曲線のようになるのです(近年は業種業界などにより、上がり方、曲がり方がどんどん早くなってきているといわれています)。
ベンチャーキャピタル(VC)などビジネスへの投資を行なう企業(あるいは個人投資家)は、今後成長しそうなベンチャー企業を探して投資を行なうわけですが、投資先候補はライフサイクルが「導入期」や「成長期前半」にある産業のなかで、「魅力ある企業」を選ぶことが王道だと思います。「これからきそうなビジネスを見極める」がまず先にあるわけです。株式投資でも、「これから成長しそうな会社」の株を買う。上昇サイクルに乗る可能性のある企業を選ぶことが、成功確率を高めることになります。
不動産の好景気が長く続いているなかで、「そろそろ悪化するのでは?」という声が広がってきています。しかし、レジュームチェンジ(局面の変化)が近いといわれているいまだからこそ、「不動産市況のサイクル」を知ったうえで、われわれ専門家が理解している「不動産投資の定石」を身につけ、不動産投資・不動産関連ビジネスを上手に行なっていただきたい。そう思ったことが、この本を執筆したきっかけです。
かつて私は、上場しているあるコンサルティング会社にて15年超働いておりましたが、そのほとんど期間、住宅や不動産関連企業へのアドバイザリー業務を行っていました。
コンサルティングの現場において、クライアント企業へ「こうした戦略・戦術をとるといいのではないでしょうか?」という提言の論拠となることを示すのは、そう簡単ではありません。
コンサルティングを行う際には、「3C(市況・競合・自社)分析からスタートして・・・・」という経営戦略を考える際のフレームワークに基づいて分析するのが一般的です。また、たとえば、「母集団の大きいアンケート調査を行う」ことで、「顧客、あるいは顧客になって欲しい方は、こうしたことを考えている」ことを示すこともあります。
しかし、これらの分析(つまり、論拠)は、「いま、どうなのか?」を分析するものであって、「これから、どうなるのか」は、これだけでは見えてきません。Apple製品の開発例などを見てもわかるように、「新しいイノベーションの芽は、現状分析だけではわからないという」ということです。
必要なことは、「この先、市況はこうなりそうだから、それを先読みして、顧客が求めるサービス(商品)を開発する」ということなのだと思います。
こうして考えると、コンサルティング業務を行っていた頃、企業経営を考えるときに、スタートは「現状分析」を行いますが、と同時に「市況予測」あるいは「時流予測」を行う必要があると思っていました。特に、市況の影響を受けやすい住宅・不動産市況では、必須だと思っています。そんなこともあり、そのコンサルティング会社の中に、各種データを集めて分析するシンクタンク部門(基礎研究・市況予測・時流予測が主な業務)を創設して、兼務責任者となりました。
その会社を退社して、現在に至りますが、行っている業務(シンクタンク&経営コンサルティング)は変わりません。また、不動産を所有している事業会社向けに、企業コンサルティングに加えて不動産投資・不動産活用のアドバイスも行っています。もちろん、自分でも不動産投資(自宅・賃貸用)も行っています。これら、すべてのキーワードは、「市況の分析と予測」です。
本書は、こうした経験を踏まえて、われわれ専門家が、何を考えて、どんなデータを分析しているのか、そしてそれを、「どう不動産投資や不動産関連ビジネスで活用しているのか」について、まとめたものになります。書店に行くと、多数のいわゆる「大家さん本」があり、そこには、「大家さんとして、どう儲けるか」の具体策が書いてあります。本書は、それらとは異なり、「不動産投資」の本質について書いています。なんらかの不動産投資を行っている方、これから始めようとされている方に、「体系立てて、不動産投資の本質」を知っていただきたいと思って書いたものです。
本書の構成は以下のようになっています。
まず第1章では、不動産投資と不動産関連ビジネスにとって最も重要なポイントである不動産価格の特性、不動産市況のサイクルについてお伝えします。
第2章では、不動産市況のサイクルを見極めるのに不可欠な正しい状況判断をするための、情報との接し方、多くの人がどうして事実を正確につかむことができないのかという情報ギャップについて考えます。
第3章では、不動産投資・不動産関連ビジネスで成功するための考え方と、不動産投資の種類や注意点について説明します。
第4章では、第3章を一歩進めて「スマートな不動産投資で成功する方法」をお伝えします。
第5章では、不動産投資・不動産関連ビジネスに大きな影響を及ぼす、いまみなさんが最も注目しているであろう「人口減少下の住宅需要」について分析します。
第6章では、誰もがかかわるであろう自宅不動産(実需不動産)の買い方(これも不動産投資といえます)について、不動産サイクル理論も考慮した賢い購入や売却の方法をお伝えします。
第7章では、不動産市況のサイクルを踏まえながら、現在の市況分析と2025年までの不動産市況の見通しを分析します。
そして第8章では、不動産市況のサイクルを見極めるために、氾濫する情報に惑わされることなく正しく実情をつかむことができるよう、データの具体的な入手法、各データの特徴、読みこなし方について説明します。
本書の内容の一部には、本来は大学での研究やシンクタンク専門家が扱うような事項もありますが、データの分析法や用語の使い方については、できるかぎり一般の方にわかりやすく解説するようにしています。また、第8章について詳しく書けばそれだけで1冊分の分量になってしまいますから、必要十分なものをピックアップするに留めました。
本書を読み終えた後は、みなさまの不動産投資・不動産関連ビジネスへのスタンスがスマートになり、成功の可能性が飛躍的に高まると思います。本書がみなさまのお役に立つのであれば、著者としてそれに勝る喜びはありません。
二〇二〇年二月
吉崎 誠二
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「不動産サイクル理論で読み解く」不動産投資のプロフェッショナル戦術
・ 吉崎誠二 著
・ 日本実業出版社
Writer:HRI journal 編集部
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