BUSINESS TREND 意外と知らない?住宅着工戸数を深堀 2019.08.22
~住宅着工統計調査とは?~
住宅着工統計は、新たに建てられた住宅に関する統計で、国土交通省より毎月公表されています。同じく、国土交通省から発表される建築着工統計と混同してしまいがちですが、実は、住宅着工統計調査は建築着工統計調査から住宅のみを取り出してまとめているものなので、建築着工統計調査の一部と言えます。この住宅着工統計は、建築主から都道府県知事に提出された建築工事の届出を毎月集計して作成されており、昨今、政府の統計調査の不正・不備等が話題になっていますが、本調査は悉皆調査ということで信頼性は幾分か担保されていると言えます(…“幾分か”という微妙な表現を用いた点は後述)。また、該当月の結果が翌月末に発表されるという情報の鮮度にも優れたデータです。
~1戸あたり170万円の消費を誘発?住宅着工戸数は内需の先行指標~
アメリカにも、建設許可件数、住宅着工件数、新築住宅販売件数、中古住宅販売件数などといった住宅に関するデータが存在し、これらの住宅関連指標はアメリカ経済の先行きを占うために欠かせない経済指標として注目されています。人口が増え続けるアメリカでは、依然として住宅へのニーズは高まっていますし、住宅購入に伴い、家具や家電などの個人消費の経済効果も非常に大きいです。更にアメリカでは、住宅を担保とした不動産ローン商品が充実していることから、住宅の価格や販売動向は日本の住宅以上に消費全般へ幅広く影響を及ぼします。そのため、アメリカでは景気のバロメーターの1つとして注目されています。
日本ではどうでしょう?不動産業界に勤めている方ならまだしも、毎月ニュースで「今月の住宅着工戸数は…」と報道がされているでしょうか?それもそのはず、日本ではGDPに占める住宅投資の割合は名目ベースで3.0%(2018年度)と僅かです。しかし、先ほどアメリカの例で述べたように、住宅購入に際しては家電や家具などの個人消費も誘発することが多く、経済全体に対する影響は実は大きいのです。具体的なインパクトはどれくらいでしょうか。
住宅金融支援機構では、住宅取得に伴う耐久消費財等への支出の動向及び消費を調査した結果をまとめています。
2014年度の調査結果(回答数:1,168 件)によると、新築持ち家では1戸あたり平均152.8万円の耐久消費財を購入、引っ越し費用として16.0万円かかっているようです。2018年の持ち家と分譲住宅の着工戸数である約54万戸に対して全てに先ほどの支出がかかってくると想定したとすると、約9,180億の消費を誘発すると考えられます。すべての新設住戸に入居があるとは限りませんが、大きなインパクトがあるのは確かであり、日本でも住宅着工戸数は内需の先行指標と言えるのではないでしょうか。
~算出方法は?課題が残る住宅統計~
昨今公的なデータの真偽が議論される中で、この住宅着工統計調査は問題ないのでしょうか?
そもそも、算出方法はどのようになっているのでしょうか。
調査票は紙でもオンラインでも提出できるようですが、いずれにせよ人為的なミスが発生しており、都度修正がなされています。
さらに問題なのは、本調査はあくまでも建築工事届が出された段階での統計なので、予定していたものと完了時にズレが生じてしまう可能性があるということです。現行の調査では、建築物の竣工時に実際にかかった費用(工事実施額)を調査し、着工時における工事費予定額とのかい離を明らかにするための補正調査を行っています。例えば平成27年の補正調査では、工事予定額が木造で平均0.89%、非木造で平均1.68%上振れしました。また工事完了予定期日と実際の完了時期のズレも現場では多く発生しているようですが、補正調査として発表がなされていないので、先行指標とはいうものの完全には真の数字とは言えない状況であります。
いずれにせよ、不動産業界で働く方々にとって、住宅着工統計は把握しておくべきデータであることは間違いがありません。HRI journalでは、住宅着工統計調査を定点観測データとして毎月お届けしていきますので、是非、日々の営業活動にお役立て下さい。